寒風吹きすさぶ曇天の東京…最近やたらと寒い日が続く。
地球の温暖化はでっち上げというトランプ大統領の主張もあながち嘘ではないのではないかなどと考えながら、八重洲中央口の自販機の前でじっと待っていると、意外にも彼女は横のほうからやってきた。
挨拶もそこそこに、初対面の気恥ずかしさで、目をそらせながら、学生生活のことなど、他愛もない会話をしつつ、八重洲唯一のラブホテルとも言うべき、レンタルルームに向かう。
取材ならばカフェでよいではないかという気もするが、お互い腹を割って話すには、周りから隔絶された個室が良い。
60分3000円。
407号室に入ると、もわっとした熱気で息苦しい。
最近ソープで逃げ遅れた客が死亡というニュースがあったが、ここは大丈夫かと不安になる。
「あまり話すのは得意ではないのですけど…」
ベッドの端に腰かけてこちらを恥ずかしそうに見る彼女は21歳。
AVデビューが18歳のとき。
ネットの動画で見るのとは若干印象が変わって見えるのは、単に眼鏡をかけていないからか、3年で成熟したからか。
大胆な女性をイメージしていたが、そこにいるのはシャイな感じの女の子だ。時折見せる笑顔にはあどけなさが残る。
「早く処女を失いたくて…。今もこれからも彼氏ができることはないので、今のうちに済ませておきたかったんです」。
AV女優になった理由を聞くと、そう切り出した。
デビュー作のジャケットタイトルにも「処女」の文字。
「処女証明書」を彼女が笑顔で掲げている。聞くと、処女なのは本当だが、処女証明書は嘘とのこと。処女証明書を偽造…これは罪に問われるのだろうか?
中学生の頃に何かのきっかけでAV女優のことを知り、それから高校生の頃に色々とAV女優になる方法を探っていたら、高校生ではAV女優になれないことを知る。
「周りの友達はもうエッチしたよって子もいて、焦ってたんです。高校生のうちに済ませたかった。普通で済ませるより、AV男優とやるほうが、病気とかもないし、安心かなと思いました」。
そして、高校卒業の年の4月、ネットで探してよさそうだったプロダクションに電話して面接を受けることに。
「そこは、ネイル、ヨガ、メイクレッスンとか色々出来るって書いてありました。面接のときのスタッフの対応や事務所の感じもよかった。他にもよさそうなところはありましたが、所属女優が可愛すぎたり、有名になる人たちが目指すところだったり、私には合わないと思いました」
プロダクション面接、メーカー面接と進み、6月某日撮影。
当日はマネージャーが車で迎えに来て、他の女優と一緒に撮影現場に向かった。
「他の女のことはあまり仲良くしないように言われていました。給料の話とかになって、あの子はあんなにもらってるのに、とかなってもめちゃうから」
その日は、一日で2作品を一気に撮影するハードスケジュール。1回目は1人の男優と、2回目はまた別の男優と、最後に2人一緒(3P)という内容だった。
「現場には処女専門のAV男優さんが2人いて、事前に顔は見れなかったのですが、スタッフさんにお願いしますと言いました。撮影が始まると、AV男優さんとは初対面でしたが、お願いしますもなしで、いきなり始まる感じでした。一回目も二回目も三回目もずっと痛かったです。でも、撮影現場の監督もスタッフも男優さんもみんな優しくていい人でした。休憩中に『大丈夫?』とか気遣ってくれた。すごく怖くてぶっきらぼうな人たちをイメージしてたのですが。一番うれしかったのは、最後に男優さんから『頑張ってね!』って言われたことです。お給料は手取りで9万円ちょっとだったかな…?最初は10万円って言われたのですが、色々ひかれて…最初にちゃんといくらもらえるのか聞いておけば良かった。でも、もっと安いお金、2~3万でやっている子もいるって聞きました」
こうして、処女膜とともに自分に殻をやぶり、晴れて処女卒業の安心感を得た。
「達成感はありましたが、その後、生活とかに変化は特にないです。家族や友達にも言ってないですし。彼氏がいれば、『新しいテク身につけたぜ!』とか言えるのですが…」。
その後、痛さがトラウマになり、AVの撮影からは遠ざかるようになったという。
9月からは撮影会の仕事がメインとなった。
「撮影会に来た人から、ビデオみたよ!とか買ったよ!とか言われてとても嬉しかった。お菓子をくれる人もいて、楽しかったです。でも、撮影会も定期ではないので、だんだん気持ちも緩んできて、結局、学業に専念するために、マネージャーさんに電話で辞めますと言ったら、わかりましたって。そういうのはフランクなプロダクションでした。」
いまは、寮暮らしをしながら、看護学校で学業に専念する日々。しかし、落ち着いたら、AV女優をもう一度やりたいという気持ちもあると言う。
「顔バレはしたくないですが、ファンが出来て、自分のことを応援してくれるのがすごく嬉しいんです。成果が目に見えるのでとてもやりがいがあります。でも本当は、結婚して子供作って…っていうのがいいんでしょうね」
結婚して子供作ってというのは、普通の女の子なら誰もが抱くごく平凡な夢。AV出演という大胆な行動で、処女卒業を達成した者なら、さほど達成は難しくないと思われるのだが。
最後に、これからAV女優を目指す人にメッセージをお願いした。
「特に身構える必要はないと思います。マネージャーもスタッフも監督も男優さんも、こちらが遠慮してしまうぐらい、すごく優しい人たちです。でも、プロダクションを選ぶときは、いきなり面接に行きます、というのではなくて、ちょっと話を聞かせてください、と言って、スタッフの対応や事務所の雰囲気を見たほうが、後々失敗しなくても済むと思います。そして、将来顔バレしてしまう可能性があることは、覚悟しておく必要があります。」
AV業界は変化が激しく、女優の賞味期限も短い。
彼女がAV女優に復帰する頃には、業界も変わっているだろう。
そして彼女自身の心も体も生活も。
AVで処女卒業を果たした勇気と覚悟、そしてあとは自信さえあれば、大きく変貌しているに違いない。
2018.01.06
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